『鬼滅の刃 4』(ジャンプコミックス)――深き闇に差す一条の月光、絆は糸を手繰るように強く――

鼓屋敷の夜明け、揺らぐ息吹

響凱との激闘を制した炭治郎たちは、朝靄の中でほのかな安堵を分かち合います。善逸は涙を拭きながら禰豆子の箱を抱きしめ、伊之助は見上げる空を指差し「もっと強い鬼を斬りたい」と無邪気に叫ぶ――三人三様の想いが、旅路の始点で静かに交差する場面です。まだ脇腹に鈍い痛みを抱える炭治郎は、それでも前を向きます。禰豆子を人に戻す道は遠く、彼に許された休息は一瞬。藤の家で束の間の療養を得るも、鎹鴉が次なる任務を告げた瞬間、その瞳には再び凛とした光が宿ります。

那田蜘蛛山(なたぐもやま)―絡みつく恐怖と命の糸

夜半、霧が漂う山道で木々を揺らすのは、風ではなく得体の知れない“糸”でした。那田蜘蛛山――そこでは複数の鬼殺隊士が消息を絶ち、炭治郎たちは救援に向かいます。月明かりを遮る鬱蒼とした樹海、枝に引っ掛かる白い繭、蜘蛛の巣に操られた剣士の虚ろな瞳……読む者の胸にも薄氷が張るような冷たさが忍び込みます。
臆病な善逸は震えながらも「禰豆子ちゃんが危ないなら行く」と必死に足を進め、伊之助は未知の強者を求めて血が騒ぎ、炭治郎はふたりの背中を見守る兄のように歩幅を合わせる。互いにぶつかり合いながらも、少しずつ溶け合う心が、暗い山の中でほのかな灯となるのです。

母蜘蛛の悲哀、刃に宿る慈しみ

森の奥、太鼓を響かせるように骨を軋ませる“母蜘蛛”が現れます。血走った瞳で操り人形の糸を振るうその姿は凄絶ですが、彼女の胸奥には恐怖に縛られた哀しみが潜んでいました。炭治郎は斬り結びながら嗅ぎ取るかすかな“諦めの匂い”。苦痛から解放してほしいという無言の祈りを感じ取ったとき、彼の剣は凪ぐようにやさしく振り下ろされます。
頸を落とされ、穏やかな笑顔で朽ちる母蜘蛛。彼女の最後の吐息は、凍てつく山を一瞬だけ温め、炭治郎の頬にも熱い雫を落とします。哀れみと使命――相反する感情を抱えたまま彼は前へ。女性読者の心にも、この柔らかな共感が静かに沁み入り、深く揺さぶられることでしょう。

月下の兄妹、迫る運命の糸

母蜘蛛を斬った刹那、空気はさらに凍りつきます。巨躯の“父蜘蛛”が山を揺らす咆哮を轟かせ、無数の糸が夜空を覆い尽くす――その背後で冷ややかに微笑む少年、鬼舞辻に選ばれた“十二鬼月”・累(るい)。彼の白い糸は家族への執着と支配を象り、炭治郎たちの絆を試すかのように絡みつきます。
善逸は別れ道の奥で毒の蜘蛛に追い詰められ、震えながらも「誰かを守りたい」と眠りの剣を振るい、伊之助は父蜘蛛の剛腕に叩きつけられても獣の勘で立ち上がり、炭治郎は累の前に歩み出て「真の家族とは何か」を問い掛ける。禰豆子は小さな爪で箱を叩き、兄の危機を察する――その刹那、累の糸が月光を裂き、闇は一層深まります。
第4巻は、恐怖と痛みを抱きながらも他者を想う優しさが幾重にも重なり、読む私たちの胸に熱い脈動を刻みつけます。那田蜘蛛山の頂で交錯する兄妹の決意と鬼の執念。その対比は、切なくも美しい月夜の光彩となり、ページを閉じた後もしばらく心を照らし続けるでしょう。
――真実の絆を求め、剣士たちの足音はまだ止まらない。あなたもまた、次巻を開かずにはいられなくなるはずです。

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