嘘と策略の果てに
あの日、異世界へと召喚された尚文は、「盾の勇者」であるがゆえに周囲から疎まれ、偽りの罪まで着せられました。信じていた人に裏切られ、心を閉ざしていた彼が、それでも前を向き続けられたのは、ラフタリアやフィーロといった、心を通わせた仲間たちの存在があったから。
第21巻では、ついにその冤罪と迫害の連鎖に決着がつきます。これまで尚文を陰湿に貶めてきた国王オルトクレイと王女マインに対し、女王ミレリアが裁きを下す場面から物語は始まります。
読者としても長らく抱えてきた「もやもや」が晴れていくような、そんな清々しい空気がこの巻には漂っています。
選ぶのは復讐ではなく「赦し」
しかし、尚文は自分を陥れたふたりに対して、死を以って償わせることを選びませんでした。
彼が選んだのは、彼らの名誉を徹底的に剥ぎ取り、「社会的死」という形で罪を償わせるという方法。王女マインは「ビッチ」、オルトクレイは「クズ」と名を変えさせられ、その行動に見合った罰を受けることに。
一見、過激な決断のようでありながらも、尚文の中にある「怒り」よりも「責任感」の方が勝っていることが感じ取れます。
彼はもう、自分の小さな復讐に時間を費やすよりも、「世界を守る」という大きな使命に目を向けているのです。
この章では、尚文の精神的な成長と、それを支えてきた仲間たちの絆がしっとりと描かれていて、読むたびに胸がじんわりと熱くなります。
次なる波への備え
裁判が終わったあとも、世界は静かではいられません。「波」は再び迫っており、盾の勇者としての役割が終わったわけではないのです。
尚文は、自らが治める領地「ルロロナ村」を拠点に、仲間たちと共に新たな防衛の準備を始めます。領主としての姿にも、少しずつ自信がにじみ出てきているようで、その変化に読者としても思わず微笑んでしまいます。
ラフタリアとの信頼関係もますます深まり、彼女のしなやかな強さや献身ぶりがとても印象的。
フィーロの無邪気さと、時折見せる鋭い観察眼もまた、この巻に彩りを添えてくれています。
すべてを赦したわけではない、けれど――
この第21巻は、ただ「許す」ことの美徳を語るだけの物語ではありません。尚文は、自らを傷つけた者たちに完全な赦しを与えたわけではなく、その罪を「理解し、背負わせた」うえで、前に進む決意を固めたのです。
だからこそ、読者である私たちもまた、「正しさとは何か」「赦すとはどういうことか」と、少し立ち止まって考えさせられます。
ページをめくるごとに、尚文のまなざしはどこまでも前へ、未来へと向いていて――それがとても眩しく、頼もしく、愛おしく感じられるのです。
『盾の勇者の成り上がり』第21巻は、ただの異世界冒険ファンタジーではなく、感情の機微や人間の矛盾を丁寧に描いた、深く心に響く一冊です。
とくに、正義と赦しのはざまで揺れる登場人物たちの描写は、繊細な感性を持つ女性読者の心にきっと届くことでしょう。
次なる波と、新たな困難の予兆を孕みつつも、尚文と仲間たちの未来が希望に包まれていることを願って――この巻を読み終えたとき、あなたの胸にもきっと、静かな勇気が芽生えているはずです。
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