『盾の勇者の成り上がり 5 』 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

盾の勇者の成り上がり (5) (MFコミックス フラッパーシリーズ)
勇者として異世界に召喚された尚文に待ちうけていたのは手酷い裏切り。クラスアップも許さない国王と決別し、他国へ向かおうとするタイミングで『第三の波』が勃発、絢爛な和服のような衣装を身にまとう新たな敵――...

新たな波、試される力と信念

フィーロとラフタリアというかけがえのない仲間に支えられ、数々の試練を乗り越えてきた盾の勇者・尚文。彼の旅は、少しずつ「理不尽な世界」から「守るための使命」へと変わりつつあります。

第5巻では、ついに次の「波」が訪れようとしています。世界を滅ぼす脅威である“波”に立ち向かうため、尚文たちは再び立ち上がることに。これまでとは比べものにならない規模の戦いに備え、準備を進める中で、尚文は新たな仲間と出会い、そして敵とも再会します。

特に印象的なのは、尚文の心境の変化。かつてはただ生き残るために戦っていた彼が、今は“誰かを守るために”戦うことを自ら選ぶようになったこと。それはラフタリアやフィーロ、そしてこれまで出会ってきた人々の存在があったからこそ。

優しさを思い出し、信じる心を取り戻した尚文の姿に、読者である私たちも自然と心が温かくなっていきます。

異世界の海と、謎多き少女・グラスの登場

舞台は、波の発生地点である異世界の“海上”。他の勇者たちと共闘することになった尚文は、かつての確執を抱えたまま、複雑な思いで準備を進めます。しかし、他の勇者たちはどこか他人事のように振る舞い、心の距離は埋まりません。

そんな中で登場するのが、“グラス”という謎の女性戦士。黒髪に和装という異国的な出で立ちと、どこか悲しげな瞳。そして彼女は、尚文たちに突如として襲いかかってきます。

この場面は、女性読者の心を大きく揺さぶる瞬間です。強く、美しく、そしてどこか哀しさを秘めたグラスの存在は、物語に新たな緊張感と魅力をもたらします。彼女の言葉や態度には、“正義とは何か”“戦う意味とは何か”といった深いテーマが込められており、尚文との対峙はまさに価値観の衝突と呼べるものです。

そして、そんな尚文を支えるラフタリアとフィーロ。戦いの中で、彼女たちは尚文の隣に立つことを当然のように選びます。その姿はまるで、信頼と絆が結晶となって表れているようで、ページをめくる手が震えるほどの感動を覚えます。

尚文の盾が導く、選択のとき

グラスとの激闘は、尚文にとって避けて通れない決断を迫る出来事となります。彼女はただの“敵”ではなく、自らの世界と大切なものを守るために戦っているのだということが、少しずつ明らかになっていきます。

それでも尚文は、目の前の人々、そして隣にいる仲間たちを守ることを選びます。その選択には、過去に何度も裏切られ、信じることを恐れていた尚文の“変化”がはっきりと見て取れます。

盾という“攻撃できない力”を持つ彼だからこそ、大切にするのは“守る理由”。その姿勢は、ラフタリアの心を強く打ち、またフィーロの純粋な想いをさらに育てていきます。

ラフタリアは、尚文が見せる優しさと覚悟に心を寄せ、いつしか“勇者としての強さ”だけではなく、“人としての温かさ”に惹かれている自分に気づいていきます。ほんのさりげない表情や仕草の中に描かれる彼女の想いは、恋に似ているけれど、もっと深くて静かな愛情に近いもの。

グラスとの対決を通して、彼女たちは“戦う理由”だけでなく、“生きる意味”そのものに触れようとするのです。

風が変わる、新たなる章の予感

戦いの果て、グラスは姿を消します。その背中は、どこか哀しく、そして尚文たちに“また会う日がある”ことを予感させます。彼女が本当に守りたかったものは何だったのか——その答えはまだ明かされないまま、物語は次の章へと進んでいきます。

戦いのあと、尚文はふと、ラフタリアとフィーロと一緒に過ごす穏やかな時間に、ほんの少しだけ「幸福」という感情を抱くようになります。短い休息の時間、仲間たちと囲む食卓、笑い合う声。その一つひとつが、彼の心をやわらかくほぐしていくのです。

この巻を読み終えたとき、読者である私たちの胸にもほんのりと温かな余韻が残ります。たとえ世界が理不尽でも、人の優しさや信頼は確かに存在し、誰かのために生きることができる。それは、女性として、誰かに寄り添いたいと願う私たちの心にも、そっと寄り添ってくれるメッセージ。


『盾の勇者の成り上がり 5』は、戦いと葛藤、そして“守る意味”に真正面から向き合う巻。新たな強敵の登場によって、物語は次なる段階へと進みますが、同時に尚文たちの関係性も、より深くあたたかなものへと育まれていきます。

信頼が育つ瞬間、言葉にしなくても伝わる想い、大切な人のために強くなろうとする意志——そんな、優しさに満ちた強さが、この巻には詰まっています。

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