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戦いの果てに残るもの
『ワンパンマン 28巻(ジャンプコミックス)』は、前巻に続き、怪人協会との戦いが最高潮を迎える巻だ。壊滅的な戦場の中で、ヒーローたちは己の限界を超えながら立ち続ける。けれど、この巻が描くのは単なるバトルの迫力ではない。戦いの裏側に潜む「人間らしさ」――それこそがこの物語の核心だ。
かつての弟子・ガロウと向き合うバングの心情には、熟練のヒーローとしての誇りと、師としての苦悩が交錯する。自らの教えが破滅の力を生んでしまった後悔、そして、それでもなお救おうとする意志。その姿は、戦い以上に胸を打つ。
一方、タツマキの超能力は極限を超え、彼女の精神までも削り取っていく。冷静さと狂気の狭間で揺れる彼女の姿には、ただ強いだけではない“生きる意志”が宿っている。力の限界を超えながらも守るために戦うその背中が、戦場の混沌の中で一際輝いて見える。
崩壊する秩序の中のヒーローたち
戦場では、誰もが自らの正義を信じて戦っている。だが、その“正義”さえも揺らぎ始めるのが、この巻の大きな魅力だ。ヒーロー協会の指揮系統は乱れ、命令の意味さえも見失いかける中、それでも立ち上がる者たちがいる。
ゾンビマン、童帝、ピッグゴッド――それぞれの戦いが孤独で、痛みに満ちている。彼らの戦いには、見返りも称賛もない。ただ「人を守る」という純粋な理由だけがそこにある。その無償の覚悟が、この世界の光をかろうじて繋いでいるのだ。
また、怪人側にも“人間性”が垣間見える瞬間がある。完全な悪ではない存在、かつては人間だった者の記憶。それらが戦いに複雑な情緒を生み出し、単なる勧善懲悪ではない奥深さを与えている。
この巻の中盤にかけて描かれる群像劇は、緻密で息を呑むほどドラマチックだ。読者は気づけば、ヒーローたちの勝利を祈るだけでなく、その生き様を尊敬してしまう。
絶望の中で輝く光
ガロウの暴走はもはや止まらず、怪人協会の崩壊は時間の問題となる。彼の存在は「災厄」そのものでありながらも、どこか悲哀を帯びている。人間であろうとした心が壊れ、力だけが暴走する。その悲しみは、戦いの轟音の中でも静かに響く。
サイタマが再び彼の前に現れた瞬間、空気が一変する。いつも通りの無表情、淡々とした態度――それなのに、彼の登場には不思議な安心感がある。全てを終わらせる男が、ついに“最強”という孤独を超える戦いに臨む。
彼が放つ拳に宿るのは、怒りでも憎しみでもない。そこにあるのは、ただ「理解」だ。ガロウの痛みを知り、誰よりもその孤独を理解する者が、誰よりも強い。その構図がこの巻を一段と深い物語にしている。
戦闘シーンはまさに圧巻。紙面から溢れるエネルギー、時間さえ止まったような緊張感、そして描線一つひとつに込められた感情。まるで映画のクライマックスを体感しているかのような迫力だ。
それでも、ヒーローは立ち上がる
物語の終盤で、静寂が訪れる。瓦礫の中に立つヒーローたちは、傷だらけで、息も絶え絶えだ。それでも彼らは、前を見つめている。敗北ではなく、希望の光を掴もうとするように。
フブキが仲間を支え、タツマキが自らの弱さを受け入れ、そしてサイタマは何も言わずに空を見上げる。すべてが終わったあとに残るのは、勝利の歓声ではなく、静かな決意だ。ヒーローであるということは、戦うことではなく、立ち続けることなのだと気づかされる。
『ワンパンマン 28巻』は、シリーズの中でも特に「人間らしさ」が色濃く描かれた巻だ。激しいバトルの裏にある優しさ、痛み、そして信念。それらがひとつに溶け合い、読む者の心を深く揺さぶる。
ページを閉じたあと、きっとあなたも思うだろう――強さとは、誰かを倒すことではなく、誰かを救うことなのだと。


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