『鬼滅の刃 15』(ジャンプコミックス)――優しさが剣となる。想いが、刃を研ぎ澄ます――

それぞれの傷、それぞれの旅路

刀鍛冶の里での激戦を乗り越えた炭治郎たちは、再び日常へと戻ることはできず、次なる戦いに備える日々が始まります。
物語は“柱稽古編”へと突入。柱たちの元で、より強くなるために訓練を受けるという新たな試練が、炭治郎の前に立ちはだかります。

14巻で描かれた禰豆子の「太陽克服」という奇跡。
その代償として、鬼の王・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の標的が、彼女へと完全に移ったことを炭治郎たちは理解していました。禰豆子を守りたい。ただそれだけの想いで、炭治郎はまた一歩、剣士としての階段を登る決意を固めます。

そして始まる、柱たちによる厳しくもあたたかな稽古。
風柱・不死川実弥、蛇柱・伊黒小芭内、そして悲鳴嶼行冥――鬼殺隊を支える柱たちの人間性が垣間見えるこの章は、戦いとは違った「心と心のぶつかり合い」が描かれ、読む人の心に静かな感動を与えます。


柱の背中、託される未来

柱稽古では、戦闘技術だけでなく「想いの強さ」もまた問われていきます。
筋肉の稽古に励む炭治郎の姿は、どこかほほえましくもあり、彼が決して“特別な才能”を持った存在ではなく、ただ努力と誠実さでここまできたのだと改めて実感させられます。

中でも印象的なのは、霞柱・時透無一郎や、甘露寺蜜璃との再会。彼らもまた、それぞれの過去や葛藤を乗り越えて、鬼との戦いに身を置いています。
そして柱たちの中でとりわけ異彩を放つのが、風柱・不死川実弥。彼の凶暴ともいえる振る舞いの奥に隠された過去と、家族への想いが少しずつ語られていくことで、「柱とは何か」という問いが炭治郎の胸に深く刻まれていきます。

さらに、鬼殺隊の長・産屋敷耀哉(うぶやしき かがや)の描写も増え、無惨との深い因縁が見え隠れするように。病に侵されながらも、静かに、しかし確実に隊士たちを導くその姿は、まるで闇夜に灯る灯火のようで、見る者の心にやさしく届きます。


静けさのなかで、忍び寄る死の気配

稽古が進むなか、物語は突如として緊張感に包まれます。
無惨の動きが本格化し、ついに鬼殺隊本部へとその魔の手が忍び寄ってくるのです。

産屋敷家への襲撃――それは、鬼殺隊と無惨との、長く続いた因縁に終止符を打つための、まさに“運命の接触”。
耀哉と無惨が対峙するシーンでは、静かな空気のなかに、壮絶な緊迫感が張り詰めます。命の終わりを予感しながらも、耀哉は言葉を尽くして無惨を諭そうとする。その姿はまるで、鬼ではなく「迷子になった子ども」に語りかけるような、慈愛に満ちていて――この場面には、涙を禁じ得ない読者も多いでしょう。

そして、ついに始まる“無限城”への突入。
鬼殺隊と無惨軍との最終決戦が、ついに幕を開けます。


夜が明けるその日まで、誰かを想い剣を振るう

第15巻のクライマックスは、炭治郎たちが無限城へと飲み込まれていく圧倒的なスケールの演出で描かれます。崩れ落ちる空間、捻じれた構造、姿の見えない敵。まるで悪夢のような空間の中で、隊士たちはばらばらに散らされ、それぞれの死闘が幕を開けるのです。

それは、決して孤独な戦いではありません。
彼らは皆、「誰かのために」剣を握っている。
炭治郎は禰豆子を。善逸は師匠を。伊之助は母を。蜜璃は、居場所をくれた人々を。――そして柱たちは、背負ってきた多くの命の重みを、心に刻んでいます。

読者は、この巻で描かれる“準備”と“覚悟”の積み重ねを通して、ひとつの戦いの終わりではなく、「物語そのものの決着」が近づいていることを肌で感じるでしょう。


『鬼滅の刃 15巻』は、静けさと緊張が交差する、“嵐の前の静けさ”のような一冊です。
剣を振るうことだけが「強さ」ではない。人を想い、守りたいと願うその心が、真の強さを生むのだと、炭治郎たちの姿が教えてくれます。

女性読者にとっても、この巻は特別な意味を持つでしょう。
厳しさの中に垣間見えるやさしさ。言葉ではなく、行動で示す想い。
そして何より、命を懸けて誰かを守ろうとするその“姿勢”に、静かに心を奪われる瞬間が詰まっています。

次巻から始まる無限城編。果たして、誰が生き残り、誰が何を遺すのか――
その答えを、あなたの心で確かめるためにも、この15巻は決して見逃せない、物語の大切な“節目”なのです。

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